黎明に叛くもの

黎明に叛くもの (中公文庫)

黎明に叛くもの (中公文庫)

l
主家を操り、将軍を殺し、仏を焼いて三悪を為し、だれの思い通りにもなるまいと壮絶な自死(日本初の爆死)を遂げた老獪な戦国大名松永久秀を、彼が「ペルシャの暗殺者」だった、という突飛な発想で描く。
こういう明らかに「無い」設定を補強するために史料を使っており、特に東大寺に火を放って大仏を焼いた歴史的事件については、
久秀が偶像崇拝を禁じるイスラム教徒だったという設定なら納得してしまう、そりゃ躊躇なく焼き払えるさ。
思えば当時珍しい天守のある多聞城や、彼が集めた秘宝の数々も、彼が西方文化の継承者であり、宗教が持つオカルト知識に基づいて集められたと言われるとうなづけるもので、これも解釈のひとつ、歴史物はこれだから楽しい。

自身を「黎明(夜明け)に輝く星」とし、日輪=織田信長をけして認めずに挑みかかっていく姿を聖書の神とルシファーの戦いになぞらえている。宇月原はこの手の、歴史的事実を西方文化と絡めるのが好きだよね。